大髙醤油 昭和物語 ⑥フジトラつゆ誕生秘話(2)
こんにちは。大髙醤油先代社長、現在は会長の大髙和郎です。
シリーズ・大髙醤油昭和物語、第6回目は前回にひきつづき、フジトラつゆ誕生の思い出をお話します。(前回はこちら)
第6回 フジトラつゆ誕生秘話(2)
勝負できる「だし」への道
伊勢丹さんの料理長の言葉から醤油の加工品・蕎麦のつゆを造る方針を固めた私は、近所の老舗蕎麦屋「吾妻庵」さんのご主人(先代)に作り方を教わりに行きました。
どうしても蕎麦のつゆ、めんつゆを造って売りたい、と懇願する私に、ご主人は「よし、わかった。教えっさ」と言って店の裏庭に連れて行ってくれました。
そこには、一度だしとして使ったと思われる鰹節が目の粗いザルに広げられて、天日で乾かしてありました。
「めんつゆの決め手はだしだ。まず鰹節を湯にくぐらせてだしをとる。そのあとこうして乾かして、もう一度だしをとって最初のだしを合わせる。『合わせだし』だ。これがいいんだ」
ご主人は丁寧に教えてくれました。
鰹節にも種類がいろいろある。花ガツオのような薄削りじゃなく、業務用の厚削りのほうがだしにはいい、など、私がそれまで知らなかった知識がたくさんありました。
本来はお蕎麦屋さんの企業秘密かもしれませんが、ご主人はもったいぶらずに披露してくれたのです。
私は会社に戻り、だし作りに熱中しました。
この時、頼りにしたのが妻の正子です。
料理が好きで得意な正子とともに自宅の台所で、何度もだしをとっては味見をしました。試行錯誤を重ねた末、合わせだしでは「宗田鰹(そうだがつお)」がもっともよい、えも言われぬ味を出すことも発見しました。
醤油にみりんや砂糖を加えて、少し日にちを置くと甘い「返し汁」ができることも教わったので実践し、その返し汁に、だしを合わせて「めんつゆ」が出来上がります。
その味をまたあれこれと修正していくことの繰り返しです。
さらに、商品にするためには長期間保存できるようにするのも必要だと考え、醤油を火で熱し、さらに味を調整しました。
こうして初めての「めんつゆ」、後のフジトラつゆの第一号が誕生したのです。
出来上がっためんつゆをさっそく伊勢丹さんに持っていき、アイデアのきっかけをくれた料理長に味見をしてもらいました。
料理長は厳しい表情で味を確かめた後、言いました。
「大髙さん、これ、毎朝5、6缶ずつ持ってこられるか?」
私は飛び上がるような気持ちで、「はい、できます!」と即答しました。
「いいか、毎朝だぞ。できるな?」
「もちろんです!」
「よし、頼む」
大髙醤油に籍を置いて10年以上経っていましたが、初めて大きな希望を感じた瞬間でした。
今回はこのへんで失礼します。
次回、フジトラつゆをさらに改良していくお話です。どうぞお楽しみに。
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